古来、日本では神々は森や深山に宿り、その信仰と「樹」、 とりわけ「巨木」とは切っても切り離せない関係にあった。 神々の依代(よりしろ)、「宿り木」としての「樹」は、人の世と神の世をつなぐ「橋」「通信手段」として重宝され、或いは「樹」自体が「御神体」「神木」として信仰の対象になっていた。 「古事記」における創生神「高御産霊神(たかみむすひのかみ)」に、「高木神(たかぎのかみ)」という別名があるのも、おそらく偶然ではない。 もう少し身近な物を考えると、例えば、柿の木を巡る「さるかに合戦」や竹に宿った「かぐや姫」、「花さか爺」「桃太郎」「瓜子姫」など、樹やその実にまつわる民話の数々、あるいは苗字や地名の多さなどからも、日本人と「樹木」の関わりは相当に深いことが想像できる。 一方、世界に目を向けてみると、
「世界の中心に立つ樹」というイメージは世界中で見られるが、その中でも最も巨大で有名なもの、それが、世界を支えるトネリコの巨木『ユグドラシル』。 スカンジナビアの『エッダ』、いわゆる「北欧神話」に描かれ、天界へと葉を伸ばし、人間界を幹に抱き、死者の国へと根を張る、「世界樹」とも訳される「樹」です。 神々や巨人、小人や人間などの暮らす九つの世界を支える「ユグドラシル」の下で営まれる主神「オーディン」と神々達が織り成す世界の創生と戦いの歴史。その果てに訪れる「ラグナロク(神々の黄昏)」と呼ばれる神々の滅亡、そして新たな再生が描かれるこの神話は、自然界の循環を投影した、まさに「死と再生」の物語と言えます。 Contents |